都条例に対して思うこと<1>

2010.12.18 Saturday
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    ほんとはこんなところで政治に関する発言とか、したくないのです。
    ここはもっと気楽で楽しく、アホな日々の記録やぶさいくなネコの写真を載せたりして、ただ読者さんと近く仲良くなるための場所でありたかった。
    特定の誰かと対立する言葉を、ぶちまける場所にはしたくなかった。


    今までこの件についてブログできちんと意見を言わなかったのは、あまりにも言いたいことが多すぎて怒鳴りたいことがたくさんありすぎて、自分の中でうまく気持ちを整理できなかったからです。
    そして同時に、心のどこかに「まさかこんな理不尽な話が本当に通ることはないだろう」「きっと誰かがなんとかしてくれる」という思いがあったからかもしれません。
    書くのが遅かったかもしれませんが・・・、でも、まだ遅すぎるとは思っていません。
    だから今ここで、はっきりと自分の考えを書きたい。
    真面目な話です。 文章は拙く、内容は退屈かもしれません。
    でも必死に書きました。
    読んでくださったら幸いです。



    ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

    12月15日、東京都議会で可決成立した「東京都青少年健全育成条例改正案」に、私は強く反対する立場です。


    この条例に関しては、私は色んな立場から「反対」です。
    当事者の1人である「漫画家」の立場から。
    都内に住み、都議会議員と都知事を決める選挙権を持つ「東京都有権者」の立場から。
    そして、心のままに生きたい、他の人にも自由に生きてほしいと願う「人間」の立場から。



    この条例、インターネットでここのところ、もっとも重大かつ恐ろしい話として話題を独占しています。
    しかし、テレビではびっくりするほどやりません。
    地方新聞では明確に反対する社説が掲載され、一部のニュース番組では30分以上を割いて特集を組んでいます。
    ネットのニュースサイトでも、可決前から強い懸念を示し、有識者の意見を掲載してその危険性を詳細に報じてきました。
    しかし多くのテレビ局では、条例可決のその日に「可決しました」と流しただけ。
    新聞も、「出版業界の強い反対に遭いましたが、結局可決しました」だけです。
    少し踏み込んだ報道のときも、『条例の真の姿』を知っている人間からすれば大変不十分な内容です。
    いつもテレビの前で、「違う、私たちが反対してるのはそういう理由じゃないのに!」と悔しさでいっぱいになります。


    なぜテレビで大きく報じなかったか。
    なぜ可決後に一斉に報じ始めたのか。
    そこには明確な理由があるのでしょうが、漫画やアニメが世の中にもたらす影響の大きさを考えればあまりにも不自然です。
    誰が誰に対して、何をしたから報道されなかったのかは、私もきちんと把握できていないので言えません。
    だから、すでに複数のジャーナリストが署名記事で報じている、「ある事実」についてだけ書きます。


    ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

    要約するとこういうことです。

    ■ この条例改正案の可決を推進した中心的組織・治安対策本部の本部長は、警察からの天下り官僚である。

    ■ この人物は、元鹿児島県警本部長。
     集団冤罪事件「志布志事件」当時の本部長で、県議会で「自白の強要はなかった」と証言した。
     この事件は後に被告12人の全面勝訴で決着し、取り調べ中に偽りの親族からの手紙を無理矢理踏ませたり(踏み字事件)、違法な長期勾留を行ったことが明るみになった。

    ■ このことを報じたジャーナリストの多くは、「この件は彼の経歴に大きな傷をつけ、警察官僚としての出世が遅れた。都議会でこの条例を通せば大きな手土産となり、中央に復帰できる」と考えている。

    ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


    −−−−陰謀論だ。漫画じゃねえんだから。
    そう思うかもしれません。
    私も初めてこのことを知ったときは「いくらなんでも」と思いました。
    でも、それでやっと腑に落ちるところもたくさんあったのです。



    まず、この条例がとても「こっそりと」都議会に提出されたこと。

    2010年2月24日、この条例は都議会に提出されました。
    藤本由香里さんという元編集者・研究家の方がこのことに気づき、インターネットで注意を呼び掛けてくれるまで、私たち漫画家ですらその条例の存在に気づきませんでした。
    都議会には反対派の議員もいましたが、世論が全く気付いていなかった。それで議員の方も、条例否決を諦めかけていたといいます。
    しかしインターネットを中心に猛反対が起きたことで、反対派の議員が強く動いてくれました。
    それで一度は否決されたのです。

    しかし11月、論議の的になった文言を少し修正した「改正案」が再び提出されました。
    これも「こっそりと」でした。そして、「約1ヶ月」というありえないスピードで可決されました。
    なぜこんなに早かったのか。
    国にしろ自治体にしろ、私たちは議会の動きが遅くて「早く決めてよ」と思うことが多々あります。
    もちろん必要な議論をしているからだと信じたいのですが、この改正案の「1ヶ月」の間に議会で行われた討論は、およそ討論とはほど遠いものでした。



    ここで一つ明確にしておきたいのは、私は、『自分たちの利益を守るためだけに反対してるのではない』ということです。
    そのことを、まず分かってほしい。これは本当なんです。
    もちろん仕事は失いたくない。でも、それだけじゃないのです。
    これは他の漫画家さんも、きっと同じだと思います。

    漫画家さんにだって、お子さんを持つ方はたくさんいます。
    「こどもに見せられんわー」と苦笑いしながら、ちょっとオトナ向けな漫画を描いて、幼稚園に通うかわいいお子さんを育てている作家さんを私は知っています。とってもとっても素敵なお父さんです。
    私にはこどもはいませんが、生まれたばかりの親友の赤ちゃんを見て、「この子が元気に明るく育ってくれるならどんなことでもしたい」と本気で思いました。

    私たちがこの条例に反対しているのは、「こんなことをしてもこどもは守れない」と思っているから。
    そして、漫画・アニメを糾弾し「青少年を健全育成する」と美しい目的を掲げている賛成派の中心的な人たちの真の狙いが、「青少年を健全育成することではない」と知っているからです。



    都議会にはたくさんの一般人が傍聴に行きました。
    その人たちが、ネットに多くの傍聴記録を残してくださっています。
    そのどれもが、耳を疑う内容でした。

    反対派の議員には「エロ議員」「こどもの敵」という罵声が浴びせられる。
    「科学的根拠が無い。きちんと説明してください」と言う議員に対し、「分からないやつにはどれだけ説明しても無駄だよ」という野次。
    「もっと慎重な論議を」と発言する女性議員には、男性議員から「おまえは痴漢されて喜ぶんだろう」という言葉が飛び、「300通以上の陳情書、10万人以上の反対署名があります」という言葉に対しては、「そんなの何通あろうと関係ないよ」・・・・・・・・


    私のスタッフの中にも、「やれることをやろう」と言って、短い休みの時間をさいて議員に陳情書や陳情メールを出した子がたくさんいます。
    それを「関係ない」と・・・
    スタッフの気持ちを考えると、くやしくてたまらないのです。
    安っぽく聞こえるのであまり言いたくないのですが、民主主義って・・・  民主主義ってなんだったっけ、と思いました。
    無力感でいっぱいです。


    賛成派の議員の主な理由は、「漫画・アニメの過激な性描写・暴力表現は、青少年の犯罪を誘発し悪影響である」ということ。

    まあ、確かにそうかもしれません。影響が無いとは言い切れない。
    そんなふうに思える雰囲気はあります。私にだって。


    しかし実は、これには根拠が無いのです。
    事実きちんとデータをとれば、日本の犯罪率は欧米のそれとは比べ物にならないほど低いものです。
    それらの国では、漫画には大変強い規制がかけられています。
    暴力描写、エロ描写(キスシーンですら禁止の国もあります)が禁止の国は多いです。 お隣の韓国では「悪口」を会話内で描くことも禁止だそうですが、日本より犯罪率が低い国は世界中を探してもなかなか見つかりません。
    青少年による犯罪も減少しています。



    「なぜ賛成派はきちんと答弁してくれないのだろう」とずっと思っていましたが、これでようやく理由が分かりました。
    きちんと答弁できるだけの、材料が無いのです。

    「漫画の規制が緩いと言われる日本の犯罪率は低い。なのに青少年に悪影響とはどういうことか。科学的根拠を出して説明してほしい」と議会で聞くことはごく自然なことと思います。
    それに対してヤジで反論するということは、つまり賛成派は、『説明できない』のです。
    科学的データを出せば、漫画・アニメの規制と犯罪率に直接の因果関係が「無い」ことが分かってしまうのです。



    ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

    出版業界はこれまでにも東京都など自治体と長く議論を交わし、「出版側で自主規制する組織」「自治体側でさらにチェックする組織」を作ってきました。
    過激な性表現(それを目的に描かれた作品)は、これらの組織によって「有害図書指定(18禁)」にされています。
    18禁になると、まず売場が分けられます。
    これは『ゾーニング』と言います。(専門用語がすでにあることからも、業界がちゃんと規則を作っていることが分かると思います)
    これらの本を、こどもがレジに持っていっても買えません。
    売ったら処罰される。これは全て、今回の条例が出る前の「現行条例」で決められてきたことです。
    出版社と東京都は”協力”して、こどもを守ろうと一緒に努力してきたのです。
    都知事とごく一部の人間の肝入りで議会に提出されたこの条例は、これまで話し合いを重ね協力して規制を作ってきた出版側と東京都、双方の努力を踏みにじるものでした。



    個人的な意見でいえば、私はコンビニにかなりキョーレツな表紙の雑誌が「18禁」として売られていることには違和感を感じています。
    中は見れませんが、表紙は見えますからね。できれば何かした方がいいのでは、と個人的には思っています。
    ただし私の近所のコンビニでは、それらの雑誌の7割は写真誌で、漫画雑誌は3割程度。 漫画単行本はありません



    そう、今回の条例では、「実写」と「小説」は規制対象から除外されているのです。
    「マンガとアニメの映像は青少年に有害」
    「実写と小説は無害」 ・・・これが今回の条例の内容です。
    なぜ実写と小説は除外なのか? それを議会で尋ねた議員もいました。
    返答は野次と、「小説は何通りもの解釈ができるが、漫画は一通りの読み方しかできないから」というものでした。


    漫画は一通りの解釈しかできない・・・

    はたして、そうでしょうか・・・? 


    ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

    賛成派には、論拠とする科学的データがありません。
    そうなると、次に別の疑問が出てきます。

    「漫画・アニメの規制と犯罪率に直接の因果関係が『無い』のなら、なぜ賛成派はそんなに頑張ってこの条例を通そうとしているのだろう?」
    これは私にとって、長く謎でした。
    しかし納得できそうな理由が、色んな場所から出てきました。
    そのうちの一つが、先ほど書いた『賛成派中核・治安対策本部長』の個人的事情です。



    本当に、アホらしくばかげた陰謀論に見えると思います。
    私だって、漫画でならこういうことを考えますが、現実にあるかと聞かれたら少し迷っただろうと思います。
    私は「クロサギ」と言う漫画を描いていますが、経済・法律・政治、どの専門家でもありません。むしろ知識は薄い方です。
    そのため、いつも必死に勉強しながら漫画を描いています。
    その過程で学んだことは、「どんな世界にも裏がある」
    「不自然に見えることには理由がある」

    そして、「表に出てくる話はほんの一部」ということです。

    世の中には、「見せたいと思う事柄だけを世間に見せることができる」力を持った人がいるのです。
    毎日同じ内容の歌舞伎役者の酔っ払いケンカを報道し続け、やっと報道してくれたかと思えば内容は不十分。
    時に「ゆがんでいる」とさえ感じてしまう大手メディアの報道を見るたび、この考えに確信を持ってしまいます。

    私個人は、今回の条例に「実写・小説」を対象として盛り込まなかったのは、単に「反対する人間と組織(敵)」を減らしたかったからだろうと考えています。


    ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

    「漫画家も出版社も、自分の利益を守りたいからそりゃ反対するだろう」と感じている方。
    どうか一度考えてみてください。
    なぜ、日本弁護士連合会(日弁連)がこの条例に反対しているのか。
    なぜ、日本弁護士会がこの条例に反対しているのか。
    なぜ、東京弁護士会がこの条例に反対しているのか。
    なぜ、第二東京弁護士会がこの条例に反対しているのか。

    「小説は除外」と明記されているのに、なぜ日本ペンクラブが反対しているのか。
    「実写は除外」とされているのに、なぜ日本シナリオ協会が、日本劇作家協会が反対しているのか。


    漫画やアニメと直接関係のない人たちがなぜ必死に反対しているのか。
    その理由と重大性を、少しだけ考えてみてほしいのです。



    私は反対派ですから、どうしても完全に中立の立場では書けません。
    それに、「表現の自由を守るため」という言葉は、その意味をきちんと理解していない方にとっては「また言ってる」的な気持ちを呼び起こすものかもしれません。

    ですから、自分で真実を見つけてほしいのです。
    反対派の意見は、ネットのコメントにしろ声明文にしろ、きわめて冷静で論理的なものです。
    もちろん中には同じ反対派でも眉をひそめてしまうようなことをネットに書きこんでいる人もいますが、同じようなレベルの言葉を議会やメディアの前で言い放つ賛成派もいます。


    以下のサイトは反対派が作ったサイトではありますが、賛成派・反対派のどちらの声明文も掲載しています。
    1日1記事でいい。どちらの立場の言い分も、少しずつ読んでほしいのです。
    そして自分の心で、考えてみてほしいのです。

    『東京都青少年健全育成条例改正問題のまとめサイト』



    この条例はあくまで東京都の条例です。
    都民以外の人には決定権が無く、あまり関係なく思えるかもしれません。
    しかし出版社と作家の多くは東京に集中しており、書店も多いです。
    東京都で売れない作品を描くことは、出版社にとっても漫画家にとっても難しい。 作品は変質していくでしょう。
    そして東京で可決されたことによって、他の自治体も動き出すかもしれません。事実、そういう話もあります。
    関心を持ち、この前例を知ってそれぞれに自治体に目を光らせる。
    まだ批判精神を持っている地方の新聞やテレビに、この都条例に対する思いを伝えてみるのもいいかもしれません。



    今回は、この条例に対して無関心だった私の後悔と、今後への危機感。 漫画やアニメが、個人の都合で「生贄」にされていくのではないかという恐怖と怒りについて、書いてみました。
    怖ろしいことを書いているという自覚はありますが、当人に対する糾弾ではありません。
    ネットでささやかれる、いわゆる「陰謀論」が真実かどうかも含めて、立ち止まって一緒に考えたい。
    そして、もし少なからず反対派の気持ちに賛同してくださる部分があるのなら、助けてほしい。
    条例は可決されましたが、まだまだやれることはたくさんあります。
    一緒に闘ってほしい。
    ただ、それだけです。



     これは、エロ漫画を規制する条例ではありません。




    今後は、「漫画家」という立場からの思い、そして「人間」としてこの条例や、条例に深く関わっている人たちに対する思いを書いてみたいと思います。

    長々とすみませんでした。
    こんなことを書かなくてはいけないなんて、本当につらいです。



    ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

    以下のリンクは、私の心に強く響いた記事やラジオへのリンクです。

    山田五郎さんのラジオでの総括 音源→コチラ
     大変わかりやすく、聴きものとしても面白いです。お薦めです。

    フジテレビのニュース番組内コーナー「知りたがり!」
     動画→コチラ
     テレビでここまできちんと取り上げてくれたのは、ここだけです。
     現行条例と今後の影響について分かりやすく伝えてくださいました。 両者に公平で、大変公正な内容です。
     公式サイトの視聴者感想も読んでみてください。 →コチラ
     12月16日分からさかのぼっていくと多数の投稿があります。

    愛媛新聞社説 →コチラ
     「分かってくれている人がいる」と強く感じました。
     反響も大きいです。

    世界一日本の漫画を愛してくれている台湾で、
      昔こんなことがあった 
    コチラ
     台湾の方が教えてくれた歴史です。全く知りませんでした。
     当時の台湾の作家たちがどれだけ無念だったろうかと考えると、本当にたまらない気持ちになります。

    日本雑誌協会編集倫理委員長 山了吉さんのインタビュー
     →コチラ
     いわゆる「雑協」という組織で、作家にとってはコワい存在です。
     この雑協に「ダメ」と言われたら、雑誌も本も回収処分になります。
     そんな組織の委員長さんのインタビューです。






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